前回の続きです。
以前に訪ねた『栃木レザー』さんで見学させて頂いた、植物タンニンなめしによる『なめし工程』の
一部を紹介しようと思います。
今回は特に長いので覚悟して下さい(笑)初めて見る方はきっと驚きますよ!
まず『なめし』とは?
簡単に言いますと動物から剥いだ『皮』は、すぐ腐敗したり硬化してしまい、部材として使えません。そこで『なめし』という工程を行う事により、腐敗と硬化を防ぎ、部材として使える『革』に変えるのです。
最近は『クロームなめし』と呼ばれる、化学薬品を使ったなめしが一般なのですが、今回紹介するのは、クロームなめしの何倍も手間隙のかかる『植物タンニンなめし』です。太古の時代より培ってきた古典的な製法で、植物の葉や樹皮から抽出したシブを使いなめします。使い込んだ時の革の自然な風合いが良く、堅牢性が高い、環境にも優しい等の特徴があります。
↓というわけで前回の画像から
訪ねたのは、2007年のまだ肌寒い4月の事です。将来、自分達の店でどこの革を使おうかと色々悩んだ結果、白羽の矢が立ったのが国内最大クラスのタンニン槽も持つ栃木レザーさんでした。

↓塩漬けで輸入された牛の原皮
牛の原皮は北米を中心に輸入されてきます。肌寒い4月でも、正直言って臭いです。社員の方曰く、『夏は凄い悪臭』との事でした…まだ革には毛と肉片が付いています。

↓水戻し
ドラムタイコの中に塩漬けの革と、水と洗剤を入れ、約3時間程洗います。原皮を洗い、柔らかい原皮に戻します。一回で約100頭分の皮を洗うそうです!

↓フレッシング
水戻しの後、巨大な皮は今後の作業効率の為に左右に分割(背割り)され、石灰漬けにされます。脱毛を容易にし、不要な脂肪を分解する為です。脱毛を終えると、フレッシングと呼ばれる作業で皮の肉面についた余分な脂肪を機械により取り除きます。

↓タンニン槽に漬け込む準備
その後更に、脱灰・酵解という以降のなめし工程をスムーズに行うために、皮を中和し、更に銀面を平滑にする工程を施し、いよいよなめしの下準備が完了となります。

↓植物タンニンなめし
皮を植物タンニン溶解液の入った槽につけ込みます。約3週間程の長い期間、薄いタンニン槽から濃いタンニン槽へと順に漬け込まれていきます。昨今の時間と経費削減に奔走する生産体制とは逆の、本当に手間隙のかかる製法なのです。

↓別角度から
タンニン槽が並びます。ピットの数は約160!

↓植物タンニンの抽出
ミモザの樹皮等より抽出しています。植物タンニンは、植物より抽出されているので自然にとっても非常に優しいなめし剤です。

↓加脂
なめしを終え、水絞りを終えた革はこのドラムタイコに入れられます。加脂の工程で革に柔らかさとツヤを与えられます。

↓セッター
加脂を終えた革を伸ばします。

↓乾燥
セッターの後、約10日程自然乾燥されます。

↓乾燥中の牛革
この左右2枚で1頭分の革です。嫁(身長162cm)と比べても、牛の革がいかに巨大かお分かり頂ける事でしょう。生産性という意味で、牛革が他の革より優れているのも頷けます。

↓再なめし、染色
その後革の厚みを整える工程を施し、再なめしによって革の柔らかさ等を調整します。また、この工程で指定の色に染め上げられます。

ここで写真に納められていないのですが、再びセッター&ハンドセッター(手伸ばし)で革を伸ばしたり、乾燥したり、バイブレーションで革に柔軟性を持たせたり、色々な工程が入ります。本当に、なんとまぁ手間がかかるのでしょう!!
↓塗装
外観の美しさを、色とツヤで強調する工程です。革の耐久性も増します。

更に、ポリシング、自動スプレー等で最終的な仕上げ工程となります。革に色々な模様をつける型押しもこの工程で行います。また、光沢感を出すためにアイロンを使う場合もあります。
その後、やっと計量、梱包、出荷の手順となります。
↓そして我々の手元へ
携帯ホルダーのセミ・オーダー仕様製作中。

いやいや、お疲れ様でした!
皮から革へ、約1ヶ月に及ぶ20以上のなめし工程の一部を、写真で公開させて頂きました。如何だったでしょうか?
実際、植物タンニンなめしは時間とコストが掛かる上に、品質の安定が非常に難しい(クロームなめしですら難しい)製法です。こんな工程とそれに関わる職人達の努力を知ると、自分達が使う革製品にも更に愛着が湧く事でしょう(笑)
『ATAKAYA』では、良い物を長く愛用してもらえるよう努めたいと思います。マイペースな製作ですが、宜しくお願い致します!
安宅